2024年03月19日更新
全国水平社 創立100年
緑鮮やかな田園風景がスクリーンいっぱいに広がります。
冒頭は、主人公瀬川丑松(せがわうしまつ)のわずかなセリフと、葛藤(かっとう)を隠すかのような無表情のアップ。間宮祥太朗(まみやしょうたろう)演じる丑松の凛(りん)とした透明感に、背筋が伸びます。
全国水平社創立100年を記念して製作された映画「破戒(はかい)」。
全国水平社は部落差別を自らの闘いでなくすためにつくられた全国組織です。
その創立大会で「人の世に熱あれ、人間に光あれ」と締めくくられた「水平社宣言」は部落問題だけでなく社会に存在する、あらゆる差別からの人間解放を謳(うた)い、日本で最初の人権宣言として社会の教科書でも取り上げられています。
「破戒」は部落出身という出自(しゅつじ)を隠し通せと父親から戒(いまし)めを受けた小学校教師の丑松が、身の周りで起こるあからさまな差別に心を乱しながらも、一つの決意を固めていくという島崎藤村(しまざきとうそん)の小説です。
2022年は全国水平社が創立されて100年という節目の年でした。全国水平社は戦後、新しい組織に受け継がれ、広く市民運動とも手をつなぎながら人権と平和の確立に向け、多くの役割を果たしてきました。しかしながら、インターネット・SNSなどで流布(るふ)される差別情報やあからさまなヘイトスピーチ・ヘイトクライム、あるいは近年の感染症流行を契機(けいき)とする偏見・差別など、悪質な差別事件は今もなおあります。
先日、水平社博物館館長の駒井忠之(こまいただゆき)さんが、こんな話をされました。「脳科学の世界では、脳は否定形を理解できません。野球で『低めの球には手を出さない』と指示を与えるより『高めの球を狙っていこう』と伝える方が行動が積極的になる。同じように『差別をしてはいけない』という言葉も意識付けとして大切だけれど、脳が行動に結びつけるには『‥‥‥』と肯定形(こうていけい)に直すことが必要です」。
なるほど、さて、あなたなら「‥‥‥」にどんな言葉を入れますか。
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