2024年03月19日更新
ハンセン病歴史資料館を訪ねて
5月にオープンした資料館は菊池恵楓園(けいふうえん)内にあります。
館内入り口のガイダンスシアター。畳2つ分ほどのスクリーンはコンクリート製で何と手のひら大の穴が開いています。説明を読むと、これは以前、園を囲っていた壁で入所者の逃亡を防ぐためのもの。穴は入所者が望郷の思いで開けた跡でした。
映像と共に、テロップが流れます。
「私たちは今、手厚い看護と介護で安らかに暮らしています。でも、ここに行き着くまで、たくさんの苦しい闘いがありました」「この療養所の中だけが私たちの世界の全て。逃げ出そうとした患者は監禁室に閉じ込められた」「家族や故郷から引き離され連れて来られた。壁の中でずっと考えてきた、人生の意味を」「そして行き着いた考え。人とつながること。隣にいた知らない人がかけがえのない仲間になった」。
スクリーンの望郷の穴が黒い欠落部を作り、映像に臨場感と重みを持たせます。
新館の展示室に「生きた軌跡」という題の、向かい合う2体の手のブロンズ像がありました。長く連れ添った入所者夫婦の手を型取りして作成されたもの。そばには、「曲がりたる 手は人中に 隠しをり 無菌となりて 久しきものを」という短歌があり、当事者に沈黙を強いる差別の酷さと、それ故に園内での「かけがえのない」出会いを通して、入所者が人生を大切に生きて来られたことが伝わってきます。
「ハンセン病に対してだけでなく、偏見や差別は当たり前のように日常にある。さあこのバトンを受け取って。あなたが社会を変える一人となってくれれば、私たちの人生には意味があったと思います。」ガイダンス最後の言葉に、スクリーンを見つめたまましばらく席を立てませんでした。
ハンセン病回復者の人権を取り戻す闘いは、私たちの人権意識を高め、広く社会を変えていくものになりました。資料館は、その願いを訪れた一人ひとりに託して語りかけます。
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