文字サイズ


背景色変更


Foreign Language

文字サイズ


背景色変更


Foreign Language

第45回から47回 医療的ケア児支援法 2022年6月号から8月号

2024年03月19日更新

第45回  医療的ケア児支援法  前編  2022年6月号

1年前の6月、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が成立しました。「医療的ケア児」とは、人工呼吸器や胃ろうなどを使用し、たんの吸引や経管栄養などを行う子どものことをいいます。支援法は、医療的ケア児の健やかな成長を図るとともに、その家族の離職を防止する目的で作られました。今年4月、県は医療的ケア児支援センターを熊本大学病院内に開設し、当事者も家族も安心して学校生活が送れるよう支援を始めています。

これは、支援法ができる少し前のお話です。

次年度入学に医療的ケアを必要とする子どもがいることを知り、私は家を訪ねました。ご両親は特別支援学校をと考えておられましたが、自宅に近く、姉と通える地元の小学校が本来の希望でした。何度か研修会に誘う中、ご両親は地元の学校を選択され、私は彼女の担任となりました。

入学式の日、受け付けを済ませたお父さんと離れ、みすずさん(仮名)は緊張して教室で待っていました。式の前に友だちに交じってトイレに向かいます。後ろからそっと付いて行くと保育園で一緒だった2人が彼女の手を取っていました。入場前、みすずさんはさっきの友だちの間に並んでいました。「みすずさんは後ろよ」という先生の声で私は彼女の手を引き、最後に並ばせました。支援学級籍はクラスが違うということで、聞き分けよく並んだみすずさんでしたが、つないだ手から見あげる大きな瞳に笑みは消えていて、私は少し気持ちが沈みました。

二日目は、トイレ・くつ箱、給食のやり方と、学校生活を送るための盛りだくさんの学習でしたが、みんなのエネルギーを受け、生き生きとしていました。自己紹介では私の言葉に合わせて、おじぎをして、自分の言葉でしゃべりました。後のじゃんけん大会で出すのはパーだけで負けてばかりだったけど、声を出して笑い、友だちと過ごす時間を楽しみました。

ゆっくりと成長していく彼女を通して、子どもたちが共に学ぶ姿を次号でもご紹介します。

第46回  医療的ケア児支援法  中編  2022年7月号

初めて特別支援学級を担当した私は医療的ケアを必要とする小学1年生のみすずさん(仮名)と1日の全てを通常学級で過ごしました。

学校探検。最後尾のみすずさんの前は大(だい)ちゃんでした。私が「みすずちゃんと手をつないで行って」と言うと、大ちゃんは転ばないように何回も手を握り直しました。不安な段差があるところではみすずさんは私を振り返ったけれど、あとは大ちゃんと2人で行くのを楽しみました。

1時間目は算数。「かずをくらべる」には(1)線でつなぐ、(2)おはじきをのせる、の二つを知るのが目標。その意味を理解するのは彼女にはまだ難しいけれど、作業はできる。集中が切れると、周りの子どもたちの姿がアクセルを吹かします。「障害」があると教室から取り出して学習するのが効率的だと考える人も多いけれど、私はそうは思いません。子ども集団は、どんな子のエネルギーも引き出す力を持っている。互いに刺激し合い、毎日毎時間が変化に富むから学びに面白さと広がりが生まれます。国語の時間、「え」の付く言葉の発表で大ちゃんがウケをねらって、「えっちとえろ」と答えたら、初めて聞くみすずさんの「はははは」という大きな笑い声。帰り際には大ちゃんにチューまでして、大ちゃんは笑っていました。

定期検診と週末を経てみすずさんは3日ぶりの登校。経管栄養を取り、遅れての入室で緊張して私の手をなかなか放そうとしません。すると大ちゃんが「みすずちゃん○○〇(不明)」次いで、ななちゃんから「みすずちゃん、きのうみすずちゃんのママにあったよ」と話しかけられ、うれしそうな顔。みるみる緊張が解けていくのがわかります。その後はいつもの彼女に戻って、後ろの席から大ちゃんに「みすずちゃんっ」と声をかけられると、振り向いて「なあに、大ちゃん」と素晴らしい発音。言葉は社会があってこそのもの。誰かに何かを伝えたい、会話を楽しみたいと思ったときに、その獲得の意欲は最高潮になるんだなあと、目を細めた私でした。 (まだまだ続く)

第47回  医療的ケア児支援法  後編  2022年8月号

給食を食べ終えたふみくんがやって来て、「これ何ね?」とみすずさんの昼食を指さします。「かぼちゃととうふ」「これは?」「それはごはん」。ミキサーにかけられた器の中身を一つひとつ教えてあげます。食堂閉鎖で生まれ、手術で口と胃はつながったけれど、みすずさんに「おなかがすいた」とか「おかしがほしい」という言葉はありません。入学を機に、直接胃に栄養を送る生活から、口から食事を取る練習をみすずさんは始めました。

給食メニューに合わせたお母さん手作りの3品の小さなお茶碗。アドバイスに従い、嚥下に慣れないみすずさんに20分ほどかけて小さなスプーンに少し載せて口に入れますが、10口ほど口にした後は「いやよう」ともう口を開けようともしません。ふみくんが「みすずちゃん、いっぱい食べんと大きくならんよ」と応援してくれるけど、みすずちゃんは頭を横に振るばかり。それを向かいの席から見ていた大ちゃんが私からスッとスプーンを奪うと、おかゆをすくって、「みすずちゃんっ」と声を掛けました。すると、みすずちゃんはアーン。「大ちゃんがやらすと、みすずちゃん食べらす!」ふみくんは、しきりに感心しています。大ちゃんは入学間もない学校探検で、みすずちゃんと手をつないだ男の子。みすずちゃんの食事の様子も毎日見ているので、スプーンにすくう量も心得ています。「せんせい、あしたもやろうか」って、片付けまで手伝ってくれました。

みすずさんは支援学級籍だけれど、1日の全てを通常学級で過ごし、私は傍らで友だちとのやり取りを邪魔しないよう控えめにサポートしました。そう心掛けたのは、みすずさんとの学び合いを通じて、周りの子どもたちに「健常者」側の「当たり前」を変える学びをしてほしかったからです。

その人らしさを認め合い、社会全体で共生の課題を解決していく。「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(注)」は子どもたちが同じ空間で学ぶことを保障し、共に生きる社会の実現を目指しています。

(注):2021年6月国会で成立

バックナンバー

「みんなで学ぼうじんけん」のバックナンバーは、下記リンクからご確認いただけます。

お問い合わせ

宇城市 教育部 生涯学習課 人権教育係

電話番号:
0964-32-1934

追加情報:アクセシビリティチェック

アクセシビリティチェック済み

このページは宇城市独自の基準に基づいたアクセシビリティチェックを実施しています。

▶「アクセシビリティチェック済みマーク」について

ページの 先頭へ