2022年03月27日更新
第32回 いっしょに遊んだことをおぼえていたい ー後編ー 2021年(令和3年)5月号
前編第31回 いっしょに遊んだことをおぼえていたい ー前編ー 2021年(令和3年)4月号から続く
了承もなく、お母さんに日記を見せた私はあきなさんに謝りました。
母を傷付けまいとする強い思い、それは同時に彼女を黙らせてしまうものでもありました。そんな彼女が変わっていくのは祖母の行動がきっかけでした。
「けっこん式のしゃしん」。数日後の日記の題でした。『ばあちゃんが、「写真見る?」とママのけっこん写真を見せてくれました。お姉ちゃんが来て、「これがお母さん、まだ若いね」と言って、おばあちゃんが笑いました。ママが来たので、「ママの写真だよ」と言ったら、ママが「ふーん」と暗い声で言いました』
祖母はあきなさんが友だちと「お父さん」の話ができるように、元気をなくさないように、しまっていた写真を見せられたのでした。けれどあきなさんは一緒に写っているであろう父には触れず、写真を見る母の気持ちを探ろうとしていました。「暗い声」は心象からくるものなのか。今度はあきなさんを通して家に伺いました。
あきなさんとこんな話をすることがお母さんに辛い思いをさせているのではないかと、私は率直に尋ねました。お母さんは「そんなことはありません」と答えられ、これまでのこと、父方にいる子どものことを話されました。おばあちゃんに「写真はお世話になりました」と言うと、「お父さんも元気で頑張っとらすとだけん、あきなも負けんごて、頑張らにゃあて言うて見せました」と答えられました。「はい先生、こればい。これがママ…うふふ。こっちがお父さん」と写真を持って来て説明するあきなさんに、おばあちゃんが「かっこよかけん、本田先生みたいて、わたしが言うとです」と笑われます。ありがとうございました、おばあちゃん。
水俣病患者で語り部をされていた故杉本栄子さんが、「自分に誇りを持つには、自分の家族や生まれたところを詳しく知ることだよ」と語られていたのを思い出します。家族、そして故郷に向き合うことは、自分が愛されて生まれてきた存在だと確かめることでもあるのですね。
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