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第42回 バスの運転手 2022年(令和4年)3月号

2022年04月28日更新

第42回 バスの運転手 2022年(令和4年)3月号



 
 
国立ハンセン病療養所菊池恵楓園(きくちけいふうえん)。まだ「隔離の壁」といわれたコンクリートの高い塀が園を囲っていたときのことです。
 
 研修依頼に訪れた私は、園内を案内してもらっていました。説明してくださった入所者自治会の方が私に、「どちらから来られたんですか」と聞かれたので、「宇城市の学校に勤めています」と答えました。するとその方は「〇〇とか、〇〇とか」と松橋の地区名をそらんじられたのです。

 とっさに私は、「あ、そこの小学校に勤めています」と返し、「そちらのご出身ですか」と尋ねました。その方は間をおいて、「以前バスの運転手をしていて、それで知っています」と笑顔を浮かべられました。そして帰り際に『開かれた扉』という一冊の本を渡されました。

 

 「ハンセン病裁判を闘った人たち」とサブタイトルの付いたその本は、突然家族と引き離された子どもの頃の話、産声を上げることなく絶命させられた我が子のこと…強制隔離の実態がつづられた証言集でした。
 


 国がハンセン病を強制隔離が必要な恐ろしい伝染病であるとして施策を推し進めたことは、ハンセン病に対する正しい知識を覆い隠し、国民に強い偏見を植え付けました。家族の一人がハンセン病者の烙印(らくいん)を押されて療養所に収容されると、家は派手な消毒を受け、地域から排除され、親族の結婚が破談にされるなどの差別が行われてきました。生活を守ろうとした家族に、絶縁された入所者も多かったといいます。
 
 今年5月、園内に、訪れた人がハンセン病の差別の歴史を自分のこととして学べる歴史資料館が開館します。差別とそれを受ける苦しみを生み出した責任は国だけではありません。病について正しい知識を持たず、目を背けてきた私たちの問題でもありました。
 
 その後再び園を訪れた折に、本のお礼をと「バスの運転手をされていた方」を尋ねましたが、分かりませんでした。あの方は「バスの運転手」ではなかったのではないか…。自戒を込め、今そう思います。

 

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